ハラウでの初レッスン

 ハラウにはすごく早く着いてしまったので、まわりをちょっとぶらぶらした。近くに教会があった。
 6時15分前くらいになったのでハラウへ向かった。Halekauwila StreetのHalekauwila Plazaという建物の中にハラウがあり、ドアが開いていた。
 中を覗くとまず女性が目に入った。「Hello」と挨拶をして、中に入った。そうしたらKumu HulaであるMichael Pili Pangが現れた。おお! 本で見た人だ! 私の名前を言ったら、「Kareanの生徒だね」と。生徒といっていいのかどうか微妙だが、「はい」と答えてしまった。
 ハラウのホームページが立派で、ルールなどもしっかりと書いてあり厳格な感じかと思っていたが、Kumuはとても親しみやすい感じで、優しそうで、すぐに気持ちが落ち着いた。Kumuが自己紹介をしてくれて、椅子を指差し座って座って、と言ってくれたのでさらにほっとした。
 そのあと少しずつ人が集まり、男性も二人いた。しかしその男性二人は次の7時からのクラスのようだった。
 ホームページでちょっと読んだのだが、このクラスはIntroduction to Hulaで、フラの経験を問わないクラスである。また、彼のハラウ「Halau Hula Ka No'eau」では、どの生徒も最初にこのクラスを受けなくてはいけないらしい。つまりこのクラスの人たちは、初めてこのハラウに来る人たちばかりなのだ。
 お母さんくらいの年の方、私と同い年くらいの人、すこし上くらいの人、もっと若そうな人、と本当にみんなばらばらだった。それぞれ登録のカードに記入をして、クラスが始まった。私だけがパウをはいていた。ちょっと恥ずかしかったが、あとで結局ステップもやったのではいておいてよかった。それに英語がうまく話せないことのほうがよっぽど恥ずかしいので、それ以外のことでなにか変なことをやってしまっても何ともない気がする。
 最初にみんなをじゅうたんの上にに座らせ、それぞれ自己紹介をした。フラの経験と、なぜここに来たかと言うこと。今までフラをやっていた人が結構いた。MichaelのKumuであるMa'iki Aiuに習っていたという人もいた。それからどこかのハラウにいたが、Kumuがリタイヤしてしまったため、そのKumuの薦めでここに来た、という人もいた。私は、英語を学校で勉強中だということと、2年間フラを日本で習っていたということを話した。「Kareanに?」とMichaelに聞かれたので「いいえ。それは1回だけなのです。別の先生です」と単語をつなげただけで答えてしまった。まあ、ここでKareanの生徒だという誤解(?)が解けたのでよかった。
 最後にKumuが自己紹介をした。彼の話し方はとても早くて、私は今日ほど早口のBイに感謝したことはない。なんとなく、おそらく半分もいっていないと思うがわかるのだ。Bイ以外の先生に習っていたらこうはいかなかったと思う。
 彼はUHのマスターを卒業したと言っていた(と思う)。そして今はみんながおおっ、と言うほどの職業についているらしい。それがなんだかは残念だが聞き取れなかった。次回他の生徒にこっそり聞いてみようと思う。だからとても忙しいといっていた。私は寝ないのだ、と冗談を言っていた。おそらくエリートというか、頭がいい人なんだろう。そしてフラはおそらく、ほとんど本人の収入なしでやっているのだと思う。
 一人一人にプリントが配られ、片面にはハラウのポリシーやルールなどが書いてある。それを早口で説明した。髪型は、後ろで束ねてお団子にしなくてはいけないそうだ。そしてパウについては決まったものがあるらしい。よく聞き取れなかったのだが、あとでプリントを読んだら、ブリーチしていない、Muslinという生地で作るらしい。最初から部屋にいた、Jという女性が着ていたものだと思う。生成色の生地に一本だけゴム(または紐)が入った飾り気のないパウ(Pa'upa'uというらしい)である。かっこいいハラウ独自のプリントがはいったものを想像していたので、そうではなくてナチュラルな素材で、素朴なかたちというのが逆にストイックで優しい感じがした。なんというか、フラの考え方に忠実で、自分を飾らないで気持ちを大切にしているという感じがしたのだ。
 説明の中には、クラスには最低でも8人の生徒が必要と書いてあった。今日の生徒は8人! ぎりぎりだ。よかった。
 プリントの反対側は、ハラウの名前の説明や、フラに使う基本的なハワイ語が書かれていた。このハンドモーションの基本用語は、Kareanのところでも教わった。Kareanのお母さんでありKumuであり、そしてMichaelのKumuでもあるMa'iki Aiuの教えなのだそうだ。
 このハラウのスタイルは、アイハをするのではなく、通常は高い位置で踊り、そしてアップダウンをするものだそうだ。
 プリントの一連の説明が終わった後に、ベーシックレッスンに入った。
 後から気づいたのだが、このスタジオには鏡がない。そして一番前には大きなホワイトボード。これはKareanのハラウと同じである。個人的には鏡があったほうが好きだが、常にホワイトボードがあるというのは、もっと好きだ。なぜなら振りよりも意味などを重視していると思えるからである。
 ベーシックはKa'o(カオ)から。KumuはまずKa'oと大きくホワイトボードに書いた。そして全くアイハせずに、かかとを上げカオをする。ヒップの動きは、今まで私が知っているものと多少違う。左右にはあまり揺らさずに上へ上げて8の字(というか∞)を作るのだ。
 それからKaholo(カホロ)、lele(レレ)、Uwehe(ウエヘ)と続いた。カホロはスリーステップで、私がいつもやっているような最後のタップはしないで、と言われた。そういえばそう聞いていたのに忘れていた。Kareanのところではカホロはすべて同じ歩幅でといわれたが、Michaelは一歩目が大きく、二歩目は本当に小さかった。私が日本で習ったのと似ている。
 ウエヘは少し難しかった。それは、つま先を外側に向け、ひざは前に曲げるからである。私はつま先はまっすぐにして習っていたので、無意識のうちにつま先が前を向いてしまう。
 しかしこんなに近くで、Kumuのステップを直接見ながら丁寧にベーシックを習えるなんてとてもうれしかった。Kareanのところでも、Olana Aiのところでも、Kumuのステップはよく見えないのである。
 人によっても違うと思うが、私は人を見て、それをそのまま頭でイメージするととてもやりやすい。本当にじっくりと相手を見て、それを真似するのが得意なほうなのだ。
 前後を入れ替わって、ハンドモーションを習った。例えば月を表すときに、手を動かしただけでは月にならない。手に顔を向けて見つめ、上体をそらし腰から上全体でそれをあらわして初めて月なのだという。
 そしてカホロとハンドモーションで何回か踊った。楽しかった。
 あっという間に1時間は過ぎてしまった。でも思っていたよりもいろいろできるものだなと思った。経験者が多いので、ステップもどんどん進んでしまうからかもしれない。
 とにかくMichaelは素敵な人だという印象。初めてのクラスで特に優しいということもあるのかもしれないが、全体的にとてもよかった。
 同じクラスだった女性のだんなさまらしき人が、後ろで見ていたのか、私に「君のダンスはとてもよかったよ」とわざわざ言ってくれた。嬉しかった。その女性は「彼女は経験者なのよ。私も練習しなくちゃ」というようなことを言っていた。私は照れて首を振るしかできず、せっかく話しかけてくれたのだからこういうときに話さなくてはだめなのになあと、あとから反省した。次にこういうチャンスがあったら話そう、絶対に。
 終わった後にまずは1か月分のレッスン料を払った。そして、次のKaneクラスの人たちがぞろぞろと集まってきていた。
 そして私は、前の晩やバスの中で、何度も頭の中で繰り返した言葉をMichaelに言った。
「もうひとつクラスを取れないでしょうか」
 とても申し訳なさそうに言うのを忘れなかった。もしクラスを1度受けてみてよい印象だったら、ダメモトで他のクラスも受けさせて欲しいと言おうと思っていたのだ。
「一人一クラスということになっているんだよ」
 と優しく言われたが、食い下がってみた。
「しかし、私はここにあと2ヶ月しかいられないのです」
 うん、と一呼吸おいて、彼はポストイットに「Wed 6:00」と書いてくれた。そして「水曜日の6時にまたここにおいで」と言ってくれた。
「明日ですか?」「そうだね」
 何度もお礼を言って、ポストイットを握り締め、ハラウを後にした。振り返ると、Kaneクラスの男の子が「Bye」と言ってくれた。
 バスを待つ間雨が降っており、しかも結構な時間待ったが、全く気にならず、ずっと感謝の気持ちでいっぱいだった。